「流域治水」で水害を減らす　地域や個人の工夫が大きな力に｜ニュース｜テレQ

「流域治水」で水害を減らす　地域や個人の工夫が大きな力に

2025/06/26 (木) 16:30

今年はまだ大雨の被害がありませんが、夏や秋は突然の豪雨や台風に要警戒です。こうした被害を減らそうと進められているのが「流域治水」です。

「流域治水」とは例えば池や田んぼに水を一旦ためる、住宅の対策を進めるなど流域全体があらゆる方法で水害を減らす考え方です。久留米市の中心部に伸びるけやき通り。水害対策の工事が進む地下に、特別に入れてもらいました。

梶屋綾気象予報士
「地下に空間が広がっています。高さ９メートルもあるということです」

一体ここは、何のための施設なのでしょうか。

久留米県土整備事務所　高山精一郎さん
「ここは池町川の洪水を調節する地下調節池です」

地下調節池とは川がはん濫しないよう増水した川の水を一時的に地下に逃がしてためることができる設備です。

「池町川の右岸川と左岸川にそれぞれ容量で１万２０００立方メートル、あわせて２万４０００立方メートルの水がためられます」

２５メートルプールに換算するとなんと、８０杯分です。整備の背景には、度重なる大雨被害がありました。九州最大の１級河川、筑後川。この支流の一つである池町川周辺は２０１８年から４年連続、１年おいて２０２３年と近年５回以上も水害に見舞われました。国土交通省のデータによりますと滝のように降ると表現される１時間に５０ミリ以上の雨が降る頻度は３０年余りで１.４倍になっています。こうした大雨による被害に池町川周辺に住む人は頭を抱えていました。

近隣住民
「床下から水が湧き出てくるので対策しても意味がありません。工事が進んで沈まなくなったらいいとは思っているんですけど」

住民はエアコンの室外機を高いところに設置するなど被害を軽減する対策はしていますが、不安な日々を送っています。福岡県はこれまでに池町川周辺の浸水対策に２２０億円を投じていて、護岸のかさ上げをしたほか水を逃がす地下調節池を別の場所にも整備してきました。今も池町川の水を地下から直接筑後川に流す、地下放水路の工事を進めるなど新たな対策を講じています。

さらに福岡県は去年池町川を含めた久留米市内の３つの河川を「特定都市河川」に指定。国の予算がつきやすくなることで今の整備の加速化が期待されています。

「地下放水路もまだ工事中ですが、今夏から活用できるものは活用していきたいと考えています」

現在工事が進む地下調節池や地下放水路はこの夏から一部が活用され、来年から本格的に運用されます。こうしたハードの整備が進む中、個人でできる対策はどんなものがあるんでしょうか。専門家に話を聞きました。

熊本県立大学　島谷幸宏特別教授
「それぞれの場所で降った雨をそこにとどめておき、ゆっくり流すというやり方に関しては住民や個人が参加できます」

降った雨が下水管などへ一気に流れることで排水が追いつかず浸水してしまう内水氾濫。これを防ぐためには、個人の取り組みが大きな助けになるかもしれないというのです。実際に対策を取り入れた山下さんの自宅にお邪魔しました。

山下洋子さん
「うちの雨庭です。小さいけど」
雨庭（あめにわ）とは、敷地に降る雨をためて土に浸透させることで、下水管に一気に雨水が流れることを防ぎ水害を抑制する効果があります。山下さんは元々水はけが良かった庭の土地をいかし、１カ所に雨水をためて庭の土にゆっくりと浸透させる雨庭を３年ほどかけて整備しました。

「昔はここも床下浸水をしていた。備えておくにこしたことはないでしょうから」

自宅周辺は近年水害にはあっていませんが、家の近くには那珂川が流れていて、水害の不安はあると話します。この雨庭、川の周辺地域にどれくらいあれば効果が出るのでしょうか。

島谷特別教授
「５パーセントくらいの面積を雨庭にすれば洪水のピークで流出する水を約２０パーセントカットできます。狭い面積で大きな効果を出すことが分かっています」

また雨水をタンクにもため、自分たちが使うための水にしています。

山下さん
「屋根に流れる水をここにためているって感じです」

タンクには雨どいをつたった水がたまる仕組みです。蛇口をひねると透明な水が出てきました。

「災害時はトイレとか手を洗うとかそういう感じです」

こちらのタンクは福岡市の助成金を使って設置しています。

島谷特別教授
「災害に対する強靱さが高まりますので雨水タンクを入れて雨庭を造るのは、都市型の福岡に適した対策だと思います」

敷地に降った雨をその場にためる治水の取り組みは大学のグラウンドや上流の田んぼなどにも広がっています。いつ起こるか分からない大雨災害。被害を軽減する取り組みが各地で進んでいます。